大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(う)1984号 判決

被告人 岸本文男

〔抄 録〕

しかしながら原判決挙示の証拠によれば、被告人は原判示の如く自動車運転の免許なく、技術未熟であつたにも拘らず、原判示の日大門臣夫が運転していた建具類を積んだ貨物自動車(プリンス五八年型)に同乗したのを奇貨として、被告人が原審公判廷で述べているように自信経験もなかつたが、練習のつもりで運転してみようと考え、大門に替つて右貨物自動車を運転するに至つたこと、原判示の如く時速約四五キロで疾走し、中江川の運転するトラツクを追越すため約五五キロに加速したが、追越の合図をなさずいきなり追越にかかつたので、目測を誤り十分な安全距離をとらず、完全に追越を終らないうちにハンドルを右に切つたため、被告人の運転する車の左側後部を、中江川のトラツクの右フンターに接触させたこと、この予期せざる突然の接触のため、中江川はハンドルをとられ、トラツクは左斜に暴走したので、周章狼狽してハンドルを右に切り、遂に本件事故が惹起したことが認められるから、中江川をして周章狼狽せしめ、その運転するトラツクを左に右に暴走させるに至つたのは、一つに被告人の運転する車をこれに突然接触せしめたためであつて、被告人が十分な距離をとり安全に追越を完了しておればかかる接触もなく、従つて中江川をして運転を誤らせることもなく、因つて本件事故も惹起しなかつたであろうことは、これを推測するに難くない。しからば被告人は、前記の如く自動車運転の経験もなく、その技術も未熟で自信もないのに、貨物自動車を擅に運転してその操縦を誤つたため、中江川の運転するトラツクに突然接触してこれを暴走せしめるという事故を生ぜしめ、因つて本件殺傷の結果を惹起せしめたものであることは明らかであるから、仮りに殺傷の結果は中江川の運転するトラツクにより生じたものとするも、本件事故の基因は一つに被告人の重大なる過失にあることは多言を要しない。従つて被告人はその責任を免かれることはできないと共にその責任たるや洵に重いものといわなけれなればならない。

所論は、子供達に直接突き当つたのは中江川のトラツクである、そのトラツクには規定以上の砂利が積んであつたため運転の自由を欠いてスリツプが激しかつた。しかも中江川は漫然運転しておつて粗暴に方向転換をしたのであるから、もし中江川が注意深く慎重に措置すればかかる不詳事は起きなかつたであろう、その責は一つに中江川が負うべきものであるとの趣旨の主張をしているが、該所論は、恰も被告人の重大なる過失に目を覆い、自ら負うべき責任を他人に転嫁して憚からざるに似て当裁判所は到底これを容認することはできない。仮りに中江川が優秀なる運転技術を有しておつて、予期せざる突然の接触にも拘らず周章狼狽することなく、適切に運転したならば、或は本件事故の発生はなかつたかもしれないが、それは一つに仮定に基く僥倖であつて、中江川にその運転技術がなかつたからといつて、被告人の前記責任を云々することはできないし、又中江川に所論の如き積載量の違反がありかつ運転上の過失があつたとすれば、同人は別箇に処罰されるべきであつて、本件においては中江川が処罰されたか否かは被告人の犯罪の成否、責任の軽重には何らの消長を及ぼさない。

(三宅 東 井波)

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